2015年1月6日火曜日

我が、蹉跌のオーディオファイル #13
.ダイナコMKⅢ改造記

ダイナコMKⅢは一応修理を終え一段落した。


名器と云うに相応しいと再度云っておくが、聴いているうちにこれはもっと高レベルの音が期待できるのではないかと思い始めた。
思ったら即やってみないと気が済まない質だから、改めて各部の電圧を測り直してみたら、各チェックポイントともダイナコの指定とは大幅に違っていた。しかも測るごとに電圧が変わるのだから魂げる。

原因の一つは家庭用100VのAC電 圧にあって、これが時間ごとに変動するということに初めて気が付いた。今迄てっきり100Vは100Vであると疑いを持った事は無かったが,どっこいこ奴 100V以下になることはないものの10Vくらいは平気で上昇して110V、酷い時には115Vを超えて上昇する事がある。各家庭の使用量が増えると推測 できる時間帯に電力会社が電圧を上げるのか知らないが、時間によって僕の115Vの昇圧トランスは楽勝で126V近くまで上昇する事がある。

結果、指定の480VのB電圧は520V近くまで上がる時があるのである。40Vの差はちょっとでかい。

それともうひとつ、入手当初劣化に気付いて交換した初段周りの抵抗がいい加減で、何の事は無い劣化した部品を出鱈目な部品に取り換えて得意になっていたわけ だから我ながら呆れるばかりである。素人のやる事はまあこんなものか。例えば270Kの抵抗が狂って380Kになっていたので270Kの抵抗に付け換えた が、それはやっぱり380Kだった、等々。測ってからやればよかったのにあの縞々の暗号を信じたばっかりに、それと測定機用の抵抗という耳当たりの良さに レベルの高さを無条件で信じたばっかりに、糞たれめこういう目に有ったわ。

こうした場合物に当たる程馬鹿な事は無いが「測定機用だろうが、WE製だろうが無条件で部品を信じてはいけない」と大きな声を出して置かねばなるまい。
皆様もご使用の際は必ず測定してからお使いなされ。そうでないと詰まらぬ思いをする。
結局、僕は初段周りだけでなく抵抗の全てをミル・レジスターデイルに総交換した。
測定してから使った事は云うまでも無い。

そして、事は序に12P・390P・750Pのコンデンサーをエル・メンコシルバー・マイカのマイカコンデンサーに換え、オリジナルのブラック・キャット0.1μと0.25μをスプラグ・ビタミンQウェストカップに一度交換したものを更にイギリスのAMPOHMというオイルコンデンサー(厳密にはペーパーワックスだが)に交換した。

このコンデンサーはイコライザーアンプを造った時に使ったテクトロニクス製の物と同様群を抜いて音質が良い。ビタミンQが霞んで聞こえると云えば大凡の想像はして頂けるだろうか。(次第に入手が難しくなっているようだ)
それともうひとつ、バイアス調整用の10Kのポテンショメーターが大きく音質を左右する。僕はここにクラロスタットのミル規格の物を使ったが、これによる音質の変化も凄かった。
こうして確かな部品を使って測定した各部のボルテージはほぼ指定通りになった。
左右で一か所違ってしまうのは初段のA6AN8のばらつきが原因らしく、この真空管にペアを求める事が難しいので仕方ないことの様だ。ここは抵抗値を換えて調整すればよい。6.8Kと47Kと270Kの抵抗である。

僕の場合6.8K→10K、47K→68Kでチェックポイント6番が指定の380Vになり、次の270K→片方のアンプは其の儘、もう一方315Kで6AN86番ピンが両アンプ共150Vになった。47kはこれ以上大きくすると6番のチェックポイント(ダイナコ指定のチェックポイントで6AN8の6番ピンではない)のボルテージが指定の380Vより低くなるので、68kあたりが限界の様だからその先に有る270Kの抵抗で調整した。
そして、バイアス電圧はマイナス54~55Vに調整する。釈迦に説法ながら65505番ピンにテスターを当てながらポテンショメーターを廻せばよい。(指定は-55v)
もうひとつ、電源の30μに4μのオイルコンデンサーを噛ませた。此処は10μ程度のオイルコン一つにしてチョークの後ろの20μに30μを移動プラスして計50μにする手もありそうだ。

4μにしたのはアエロボックス4μ/600Vのサイズがこのアンプにぴったりだったというだけで特に理由は無いが30μとパラで使うならあまり大きな値でない方が良いかもしれない。これで音がぐっと円やかになる。
これらの改造は僕にとっては大成功であったが、恐らく、本来のMKⅢの実力を十二分に発揮させることに成功したのだろうとも思っている。
少なくとも入手時の劣化した音とは全く次元の違う音になって今度こそ復活した事は確かである。

40年前新品だった時、このアンプはどんな音がしたのだろう。適わぬことながら聴き比べてみたいものだ。

振り返ってみると、入手時から残っている部品はトランス類とブロック電解コンデンサー
30μと20μ3個を内包)スピーカー出力端子だけで、他の部品は全て新品に変り、グレードアップされた。だが回路や乗数を変えたわけではないので、このアンプの持つ本来の音からそう遠くは無いのだろうと思われる。

自己満足ではなく冷静に聴いて、本当にダイナコMKⅢは素晴らしい音だともう一度云っておく。嘘だと思うならやってみるといい。ダイナコは不思議なほど安価で手に入るし、失敗したら元に戻せば良い。

ただ金を掛けるだけがオーディオではない事も実感できるかもしれない。
適材適所、人選と同じだ。

2011.03.06