2014年8月26日火曜日

我が、蹉跌のオーディオファイル #07
音の入り口 ②

さて、その最初、音の入り口、ピックアップカートリッジだが、基本中の基本はステレオレコードにはステレオカートリッジを、モノーラルレコードにはモノーラルカートリッジを使うことである。

ステレオをわざわざモノのカートリッジで聴く人は滅多に居まいが、モノのレコードはステレオカートリッジでもちゃんと音は出るからついつい今アームにくっ付 いているステレオカートリッジで掛けてしまい勝ちである。僕もそうだったから良く分かるが、いちいち面倒くせいのである。

今更めくようだが、しかしモノレコードはモノカートリッジで聴くべきで音の輝きが全然違う。それに実に艶めかしいものだから聴き出すとのめり込むかも知れない。

幸か不幸か僕は35年間新藤ラボでチューニングしたオルトフォン(ORTOFON)SPU-Aを使っていた。

このカートリッジが余りにも素晴らしかったのでこの35年間は他のカートリッジを聴く気にもならなかった。

それ以前はエンパイア(EMPIRE)1000ZEXEMT-TSD15SPU-AESPU-ASPU-GTE等を使いモノはオルトフォンCA―25Dを使っていたが出番は全くなくなった。(CA―25Dを聴かなかった事は基本的に間違っていた)

エンパイアは低域がだぶつく傾向が強いので僕にとっては論外、EMTは本来検盤用のカートリッジだからやや音が冷たいので向き不向きがあると思う。

僕はちょっと苦手だった。

オルトフォンは其の儘だと温かみはあるが音が太い。
つまり、双方とも極めて優秀なカートリッジである事は確かだが本来の用途の違いがはっきり出て好みが分かれるところだろう。

新藤ラボのチューニングによるSPU-Aはそうした問題を超越したところに位置しており、どちらが良いとか悪いとか云うレベルの音ではない。

無論音は好みだから嫌いだと云う人もいるだろうがまず負け惜しみだろう。
僕のオーディオ人生の唯一最大の間違いはこのカートリッジも手放したことだ。
だが、何かを得ようと思った時、何かを捨てなければならない時がある。
これを手放した後匹敵するカートリッジを僕は探した。
基本的には無駄な努力だということは解っていたが、それでも探した。
結果論だがその事で得た事がある。
僕の知っている限りのカートリッジはもう解っているから、今迄聴いた事のないカートリッジの中から僕は探した。

何時頃開発されたか、従来のMMやMCではない、FB型というのを発見した。
「マ グネットもコイルも使っておらず、針先が360度どの方向に対しても動きやすさが均一なので、針が感じた動きを歪ませることなく反応できる」と解説があ り、つまりレコードに刻まれた音を細大漏らさず再生すると加えて説明している。(ネットでGRADOを検索すると出てくる)

理想的である。僕は飛び付いた。これはひょっとするかもしれない。

中古でXTZVというのが出ていた。なんでもグラド(GRADO)の最高級品だという。
本当でも嘘でもこのメーカーの音の傾向は解るだろうと思って一先ずこれを買った。悪くなかった。
が、吃驚したことに突然ピストルでも撃ったようなパン!という強烈なノイズが入り、暫くしてまたパン! そして続けさまにパン!パン!パン!

一昔前、横浜のヨットハーバーの脇に1台の車が止まっていた。何やら小刻みに揺れておるので、我々阿呆な学生どもが地を這って近付き両脇からそっと覗くと、 ぬっと眼前に現れたのは一丁のピストルであった。一人の鼻先でその銃口はピタリと止まった。「うわあ・・・」という声を押し殺し、馬鹿どもは逃げた。

本能だったのか全員がジグザグに走った。乗っていたのは米軍の兵隊だった。

夜 烏の様な奴で眼ばかりが白く光っていたと、この状況の中でもしっかり観察していた奴が云った。いや野郎はピストルだけ此方に向けてやることはしっかりやっ ていた。と云う奴もいた。もう一回行ってみようということになり、通りを覗いてみたがもう車は無かった。早い奴だ、済んだらしい。一難去って大笑いだった が、このパンパンいう音に詰まらん話をつい思い出したくらいこの音には驚かされた。40数年も経ってから鼻先でパン!である。

レコードに傷は見当たらないし、塵にしては音が大きいし、他のレコードを掛けても同じようにパン!パン!パン!

何と、原因は静電気だった。

小規模とはいえこれは雷だからな。冗談じゃねえ。

張本さんじゃないが、アメリカの物はこんなもんなのか。

だが、この問題はS.E.R.D(Static electricity reducion device)というレコード用の静電気軽減シートで完璧に解決した。ちょっと高いがこのシートは素晴らしい。

レコードのノイズの原因は僕が云うまでもなく傷と塵だが、塵を吸い寄せる静電気は大敵で拭っても拭ってもこいつがしっかり塵を掻き集めてくれる大変な厄介者 だが、このシートはほぼ完璧にこの静電気を防止する。レコードの下に敷いて使うので演奏中ずっと機能し続けるから有難い。

レコードに帯電する静電気は各社の材質によってばらつきがあるが、大凡6KV程帯電しており、クリーニング時に拭いて摩擦すると酷い時には3倍、軽くて1.5倍程増加するがその 殆どを消去するから効果は絶大。(詳しくは(有)インタービジネスへ、宣伝料は頂いていないので嘘ではない)

このシートを使って目出度くピストル音は消え たが、耳が慣れてくるとやはり新藤バージョンのSPU-Aには遠く及ばないことが解った。

  (続く…)   2010.08.18