2014年9月30日火曜日

我が、蹉跌のオーディオファイル #08
イコライザー③

今回は最初に云っておくべき事を云い忘れていたので、電源の事をちょいと一言。

どんなに優秀な回路で優秀な部品を使ったアンプでも電源がチャチだと正直にチャチな音になるからこの事を先ず銘記したい。
しかし、これは考えてみれば当然の事で、アンプの中を通る電気を造っているのが電源なので、ここの質が良ければ良い音がして、悪ければ良い音がしないのは当り前の話である。
此処では極普通の回路、整流管で交流を直流にする回路に付いて申し上げておこう。
(トランジスタの事は知らないが、真空管でイコライザーを造るなら整流管を使うほうがより良いだろう)

電源は回路が単純なだけに須らく部品の良し悪しが全てを決定する。

先ずは電源トランス。

今ではトランスも良い物が少なくなった。日本製ではタムラタンゴ野口トランス等があるが、積極的にお勧めはできない。そこそこの音は出るが良質とは云いかねる。
僕は野口でやったが、大いに不満が残っている。音に締りが無いのは間違いなく電源トランスの質によるところである。

トライアッドはとっくに消えているし、ウエスタンな ど今や単なる伝説に過ぎなくなってしまった。(もう程度の良い物は残っていない)ここは一つ特注をお勧めする。

特注だからと云って高くつくような事はな く、イコライザーのトランスなら普通1万円以下である。因みに野口トランスの既製品は7500円で僕が発注した特注品は8000円である。


2次側に240V程度、12.6V、5Vがあれば大概のイコライザーは何とかなる。

次いで大切なのは整流管、こんなもので音が変わって堪るかと思う向きもあろうが、実は整流管が音を決定すると云っても過言でない。同じ5AR4でもピンはムラード、切りは中国製の全て、(オーディオに関する限り中国製など決して使うべきではないと声を大にして云って置かねばなるまい。安物買いの銭失いとは真さにこの事で、誠意の欠片も宿っていない粗悪品ばかりである)
此処はしっかりしたメーカーの本物を選ぶとよい。

次は電解コンデンサー。今迄はマロリースプラグを 良しとしてきたが、案外日本製の電解が素晴らしい。ニチコンでもエルナでも良いがちゃんとした日本製なら間違いないだろう(実は中国製と云う事も最近の製 品には有るのでここは店に、或いはメーカーに確認を取るのが良いだろう。直にメーカーに電話して製造国を確認すればよいのである)
そしてオイルコ ンデンサー。これは整流管から直近に8~10μf程度を使うと良いだろう。(コーネルをお勧めする)チョークを通して次の電解は250μ程度が良いが、こ のコンデンサーに0、22~1μ程度のグラスマイカコンデンサーをパラで繋ぐ事をお勧めする。コンデンサーの質にもよるが高域の輝きが違ってくる。

ヒーターは使う真空管によって色々だが、直流点火するならヒーターチョークを使うのが一寸した山葵である。これで一味違った電源が出来るだろう。

こ こで少し話題をかえるが、食品では産地偽装が話題になったが、オーディオの世界ではとうだろうか、近年、目新しい真空管アンプ・メーカーが出てきたが、小 さい文字で”Made in Chine”と 表示すればまだましで、真空管、コンデンサー、トランスは中国製、日本で最終組立てと検査を行って”Made in Japan”は偽装ではないのか。趣味人のためにパーツの産地表示をしてほしい。中国製で音がよければ堂々と表示すれば良いのではないか。

日本製で有るか のようにしユーザーが気づくまでの時間差で利益を取り込んでるとしか思えない。

2011.09.12

2014年9月22日月曜日

我が、蹉跌のオーディオファイル #08
イコライザー②

部品で音が変わる。
もう知っている人は知っている事実だが改めて云っておく価値はあると思う。

最初の計画を縮小してプリアンプだけにして赤豚の制作は数年前にスタートした。
この時は抵抗をAllen Bradley(アーレン・ブラッドレイ)、コンデンサーは電解にマロリー、カップリング、スプラグビタミンQ他同等品、その他オレンジドロップ等を使った。このあたりの部品はマッキンC22などに使われており、音質的にはかなり良好なものである。

以前三栄無線のSRPPプリアンプと4300Bメインアンプの中身を全てこれらの部品に取り換えた事があるが、ぼろ糞だったこのアンプはマッキンC22MC275のコンビよりも音が引き締まって時としてこれらを凌駕する程の音を出した。部品で音がどれだけ変わるか実証済みだったので迷わず当初はこれらの部品を選んだのだ。

しかし、アーレンの難点はバラツキがある事で、3Kの抵抗が2.8Kだったり、3.3Kだったりする。これが音像のふら付きを誘うのかどうか解らないが、後 にこれはもう少し厳密なデイル中心に置き換えた。音質的には左程の差は感じなかったが、気の所為か音全体が落ち着いたように感じた。


進める人があって、最近それを更に無誘導巻線抵抗に替えたが、これによる音の変化は劇的だった。音の背筋がピンと伸び、前へ飛んでくるような音に変わった。

コレステロールが無くなって血がさらさら流れるように不純物が消え去った感じである。

各楽器の位置のふらつきが無くなり、音が明確になるなど二皮も三皮も剥けた音に文字通り大変身し、この時点でアンプの次元が大きく変わった。

こうなると止められなくなる。

この抵抗の出所はアメリカだそうだ。メーカーは解らないが通常僕らがイメージする抵抗器とは随分形状が違ってコンデンサーのような形をしている。
一個一個抵抗値を測って買ったがどれも表示との狂いは0であった。

駄目元の気分でというより半信半疑でやったことだが、音が出た途端にそうした気分は吹っ飛んだ。部品としては安くないし、数が少ないので必要な値を揃えるのに苦労したが、マッキンマランツのビンテージアンプを買う事を思えば価格的にはタダみたいなものだし、再度云うが出てくる音は次元が違う。

抵抗をデイルに取り換えた頃、同時にコンデンサーをウェスタンの弁当箱みたいなごつい奴に替えた。若干ビタミンQよりいい音の様に思ったが、これはそう思い たい気分が聴かせる音で、実際はそれほどの差は無く、落ち着いてくると殆ど差が無い事に聊かがっかりさせられた。また戻すのも面倒だから其の儘にしたが、 お陰で重くなった。重い、でかいは誉められない。

この頃カソードのバイパスにはSPRAGUE(スプラグ)の100マイクロを使ったがこれは少し怪しかった。従来のスプラグ製品に比べると何処となく薄っぺらで価格も安かった。中国製ではないかという人が居たがそうかもしれない。(中国製のものは例え安いからと云っても手を出さない方が無難で結局捨てることになる)

このバイパスは30年ほど前に銀タンタルの150マイクロの買い置きがあったのをすっかり忘れており、思い出して引き出しの奥を探ったら出てきた。
カソードのバイパスにはこの銀タンタルが良く、音が引き締まる。
早速付け換えた。詰まった煙突を掃除した時の様にすっきりした。
これで一応一段落し、ここらでもう良いかと思ったが長くは続かなかった。


抵抗器であれだけの変身ぶりならコンデンサーにこれ以上の物が見つかれば更に又次元がアップするかもしれない。隠れた名品がきっとある筈だ。

それが有った。


結果から先に云うと、先ずカップリングだが、Tektronix(テクトロニクス社)(オシロスコープなど測定器の専門メーカー)の0.1マイクロのオイルコン、これはハーメチックシール(湿気が入らない)処理が施してある。低音部の0.01マイクロはベルマークのウェスタンの(スプラグのOEM)ペーパー オイルコン、高音部はテクトロニクス0.001とスプラグビタミンQの0.001をパらにした0.002マイクロ、最終段プレートからの出力段0.5マイ クロは、ハーメチックシール処理されたウェスタンの軍用オイルコン(チューブ型)で決まった。

結局カソードのバイパスに使っている銀タンタルを覗いて全て付け換えることになった。

尤もそれは結果であっていきなりこれらに決定したわけではなく、これらの他にマイカコンやスチコンも試してみた結果がこうなったのである。

部品を付け換えるとき、何もかも一遍にやるとどの個所のどの部品で、音がどう変わったかが解らなくなるから、一か所ずつ付け換えて音を確認しながらやっていった。

1 番目は最終段、スプラグのビタミンQからウェスタンの(弁当箱みたいなネジでシャーシーに取り付けて使う灰色の奴)オイルコンに代えたた部分だが、ここは 他に候補が無かったので楽だった。(本来此処の値はプリアンプの入力インピーダンスに合わせるようにするのがベストの筈だが、肝腎な入力インピーダンスが 解らないので0.5マイクロのままにしてある)
音に一層の張りが出て引き締まった。同じウェスタンでも随分レベルが違うものである。ウェスタンなら何でも優秀だと思うのは大変な間違いであることを実感した。
ここはこれで決まり。

2番目はイコライザーの低音部分の0.01マイクロ。ここも同じ様にスプラグからウェスタンの弁当箱に替えていた部分であるが、此処はウェスタンマイカコンベルマークペーパーオイルコンを試した。

マイカコンや弁当箱とでは比べ様も無い程ベルマークは優秀だった。
低音のボリウムがぐんと増し、ぴしっと締った。文句なくこれに決定。

3番目は高音部の0.002マイクロだが、小さい値のコンデンサーは良質の物を見付けるのに苦労する。今迄はずっとオレンジドロップの0.001をパらにして使っていたところである。ここはメーカー不詳のマイカコン、富士電機のスチコン、コーネル・ドゥビラーブラック・キャットスプラグビタミンQの0.001をパラにした0.002、テクトロニクスの0.001マイクロを試した。(余りにもテクトロニクスが魅力的だったので0.001も試してみることにした)面倒なことこの上なかった。

マイカコンは音全体に霞が掛ったようになるので没、富士のスチコンは悪くなかったがオレンジドロップと大差ないのでこれも没、テクトロニクスは残念だった。0.001は矢張り音が引っ込む。ビタミンQは音が汚くなって没。

結局、最もバランスが良く、音の綺麗なブラック・キャットが残ったが何か釈然としない。音が一番きれいなのは何と言ってもテクトロニクス。問題は容量が半分 しかない事によて音に厚みがところかも知れないから、ならばどちらかと云うと音が太いビタミンQとパラにして0.002としたらどうなるか、良い結果は想 像出来なかったがやってみた。

結果は目眩がするほど素晴らしかった。

どうしてそうなるのか解るわけがないが、容量が整い、相乗効果で双方の良い所だけが音になって出てきたようだ。抱き合わせるものによっては逆の結果もあるのかもしれないが、偶然とはいえ筆舌に尽くしがたい美音を奏でるようになった。
何でも諦めずにやってみるものだ。生じっか僕に電気の知識が無かった事が幸いした予期せぬ効用の発見である。

4番目はカップリングの0.1マイクロ。ここもビタミンQから弁当箱に替えた部分だ。ウェスタンのマイカコン0.16マイクロとテクトロニクスのハーメチックシール処理が施された0.1マイクロのオイルコンを試した。テクトロニクスが擢んでていた。当然付け換えた。

予想通り音は劇的に変化した。もう何の文句もなし。一体この臨場感はどう云う事なのか。何故こんなもの一つでこうも臨場感が出るのか、本当に気持ち悪いほどで、不思議と云う以外にない。ジャズなどは酒とたばこと咽返る人の臭いまでする。

レコードから臭いがする。嘘に決まっているがそう錯覚させる位生々しい音に変身した。
こうなると寧ろ疑問も出てくる。本当の音とは何なんだという事だ。

色々やったがどれがレコード本来の音なのか。
アンプはレコードに刻まれた音を細大漏らさず色付けをせずに鳴ってくれる事を僕は良しとしているのに、カートリッジで音が変わり、アンプで音が変わり、スピーカーで音が変わる。

そしてこんなちっこい部品一つで音が激変する。

もう冗談じゃねーわ。

が、兎も角結果良ければ全て良し。僕のアンプだから良いと思えばそれで良いのだと割り切って余計な疑問を持つのは止めることにした。

しかし、これで終わったわけではない。シャシーをコンパクトにし、その時序に配線材を換えよう。
これでまた音が変わる。もうヤケクソじゃ。とことん行っちまうしかもうなかろうし、これはこれでまた楽しみなのだ。

                                             つづく    2010.09.14

2014年9月17日水曜日

我が、蹉跌のオーディオファイル #08
イコライザー①

レコードの音溝を針で拾うと、当り前だがそれは次にプリアンプのイコライザー部か単独のイコライザーアンプか、何れにせよイコライザーに送り込まれる。

equalizerを直訳すると「同等にするもの、歪み、圧力などの平衡装置」と辞書にある。
釈迦に説法だと思うが、お浚いしてみると、レコードには再生時の音の振幅とは反対の音溝が刻まれている。

何故かというと大きな低音の振幅をそのままレコードに刻んでしまうと振幅が大き過ぎて針がちゃんとトレースせずに飛んでしまうからだ。

だからその振幅を小さく刻んで綺麗に針をトレースさせ、再生時にはその振幅を元に戻す、つまりイコライジングして正常な音に戻して我々はレコードを聴いてい る訳で、その信号を反転させて正常な音にする装置がイコライザー、云ってみればレコード再生の心臓部、ということになる。

従って仇やおろそかには出来ない。

「赤豚001」誰も御存じなかろうが今回はその中身に付いて。
こ のアンプは本来プリアンプとして造ったが現在フラットアンプ部は使っておらず、従ってハムやノイズを拾いやすいスイッチはMCとMMの切り替えスイッチだ けにしている。当初はプリメインアンプを造る予定だったのでシャーシーが馬鹿でかく、中は試行錯誤の名残で穴だらけなので近々組み直すことにしているが、 どうあれ日々改善(改悪もあったが)されており、常に成長過程にあるアンプだ。

回路はECC82を使ったCR型の基本回路を一切弄っていない。

電源は別電源とし、5AR4SIEMENS(シーメンス)で整流、オイルコン、(コーネル・ドゥビラー)チョーク・コイル、電解コンはMallory(マロリー)の普通の回路でB電源270Vを得ている。ヒーターはブリッジ整流、電解コン(マロリー)で12.6Vを得ている。


電源はアンプの全ての土台になる重要な部分だから、良い部品を使ってしっかり造り込んだ。電源トランスとチョークトランスは30年前新藤ラボで調達したものを使っている。どうあれ此処が土台だから品質の悪い物は避けた。

重要だと思うので敢えて申し上げるが、アンプで部品をケチるのは命取りだ。

コストパフォーマンスを考えるのは採算を取らねばならないメーカーが考える事で、我々マニアは予算の許す限り最大限良質の部品を使うべきだと思う。(値段が高いということではなく、良質の部品)

それは我々の体と同じ事で、健康で良質な臓器が揃っていて初めて体の健康が維持できるのと似ている。「心臓が丈夫だから肝臓は程々で良い」という事で良い訳 が無いのと同じで「カップリングに良いコンデンサーを使ったから、カソードのバイパスは程々で良い」などという事は無く、こういうケチりをすると音はその 程々のバイパスコンデンサーの質に全体が引き摺られる。

しかし、此処がまた肝腎なところで、自分の懐に見合った事をするというのも鉄則である。
矛盾するようだが、不思議な事に余り無理な事をすると良い音がしないのである。それは、良い音に聴こえないということかもしれないが、生活のバランスは音のバランスより大切だという事を僕は若干ながら体験している。

それと昔は良かったという古い名品(ウェスタン等)も流石に半世紀の経年でいかれている物が多く、しかも価格は高騰しているから、良くチェックして買う事が肝心だろう。 
 
  つづく  2010.09.12

2014年9月9日火曜日

我が、蹉跌のオーディオファイル #07
音の入り口④

此処が決まったら次はリード線。

現行品ではオーグラインとか銀線とか色々あってそれぞれ特徴があって良いが、これは0.06ミリの絹巻エナメル線を7本より合わせ仕上り外径0.3ミリのウェスタン・エレクトリック製リッツ線に止めを刺す。オーグラインも銀線も使ったが、論外の情報量である。何故だか僕に解るわけが無い。

買う時は騙されないように、本物のウェスタンのこうした原材料は極めて少なくなっている。あっても腐っていたり、酷い物が高く売られている事もあるので要注意。また、エナメルを剥がす時は薬品を使って剥がさないといけない。
刃物で削り取るのは至難の業。

アームの中の配線も上に同じ、他とは全く違うので手に入るならぜひ交換してみることをお勧めする。これが同じアームかと耳を疑うだろう。ただし、アームを壊さないように慎重を要する。
シェルもしっかりしたものを選ぶとよい。FRS5などは優秀だ。このクラスを選ぶとよいと思う。
人気のSMEだがアームと同様有名税を払わされるので覚悟して買うとよい。
ネットなんかに頻繁に出てくるようだが、本当に良い物は、僕の様な馬鹿ものでない限り手放さない。

ラストはフォノケーブル、フォノケーブルに限らず市場ではこのケーブルが極めて怪しい状況になっているようだ、高圧電線の様な直径3センチもあろうかという モンスターケーブル、10万20万は当り前、100万近い物まで存在する。買える人は買えば良いと思うが、僕は買えても買わない。造っている本人は買う気 になるんだろうか。

アンプ間のケーブルは古いノイマンのマイクケーブルがピカ一素晴らしい。
が、 これも買う時は要注意で同じノイマンのマイクケーブルでも時代が近くなるに従って品質が落ちている。現行品らしいがメーター6万円などと云うのもあるそう だ。それを買った人がいて、某所で古いノイマンと聴き比べ、溝に捨てたそうだ。麗々しくノイマンなどと銘打ってある様なものは避けた方がよいだろう。

この程度のケーブルなら何処にだってある。

兎 も角良いのは古いノイマンのマイクケーブル、特徴を言うと、色は薄い灰色、直径はUSBケーブルよりもふた回りほど細く被服の表面がごつごつしていて、 シールドが金属の板状になっている二芯シールド線である。同じマイクケーブルでもその次の時代の濃いグレーの、USBケーブルよりも一回り半ほど太い三芯 シールド線も悪くは無いが、比べると問題外だから買うときは気を付けるとよい。

フォノケーブルに限って言えばこれも上記と同じでウェスタンのリッツ線が良いが兎に角細いので細工も取り扱いもちょっと大変だ。

第一1メートルのケーブルを造るとして、4メートル必要だから、手に入るかどうか解らない。だが、やっている人はちゃんと居て、身悶えして喜んでいるそうだ。罪のない話である。
僕が今でも使っているフォノケーブルは新藤ラボの銀のシールド線だが、これも素晴らしい。
もっとも銀の音が嫌いだという人はけっこう居るから勿論そういう方にはお勧めしない。
ひと頑張りしてウェスタンのリッツ線かノイマンの古いシールド線を探すといいかもしれない。あるところには有るものだ。見付かりましたらお慰み、貴方は決して手放そうとなさらんことだろう。
もし高圧線をお持ちならたとえ100万でもきっと溝に捨てたくなるだろう。それ程このマイクケーブルとリッツ線は素晴らしい。

プレイヤーとアームの事は余り云いたくない。カートリッジ同様手放した僕が馬鹿だった。
センタースピンドルを改造し直径40センチ程のターンテーブルに乗せ換えた新藤ラボ扱いのガラード301オルトフォンRF297アーム、上記の話の物は本来このクラスで音のバランスが取れる筈だ。しかし、301も401も古いものだから確かなものかよく確認しながら買わないと後で嫌な思いをする事になる。飛び付かない事が肝腎だ。

エラックのプレイヤーも良いと聞くが僕は使った事が無いので責任を持って申し上げる事が出来ない。

不思議な事に良い音は古い製品に宿っていることが多い。軍事目的などで金に糸目を付けずに開発したからか、黎明期で皆が頑張ったからなのか、また当時の人達が真面目でケチな商売っ気など出さなかったからか、そこは解らないが事実は事実である。
しかし、開発されてから既に半世紀の時が経っている。いかなる良品も経年変化で相当いかれている物が多いからブランドに飛び付かない事だ。
特にウェスタン・エレクトリック製品は要注意、どんな上等の肉も腐っていたら食べられないし、食べないほうがよい筈だ。

ここで申し上げた事は全て、こうでなければならぬという事ではなく、僕のやったことが「こうだった」という経験談である。
自己責任を前提にすれば、世の中に「ねばならぬ」という事は無いと僕は思っている。

2010.08.24

2014年9月2日火曜日

我が、蹉跌のオーディオファイル #07
音の入り口③


残りは幾つも無い、アメリカ系を外すと後はデッカエラックである。

AKGなどもあって古いタイプを絶賛する人も多いが、針交換に苦労しそうなのでこれも外した。

滅茶苦茶に高値をふっかけられたり、音が変わったり、基本的に針の摩耗を心配しながら聴くのは嫌だから、二度と出ないビンテージ物には手を出さない事にして いる。もう少しジジイになってこっちの寿命の方が短いと予測できるようになればAKGも聴いてみようが。尤も明日の事は解らない。

翌日の誕生日を前に「明日でおいくつですか」と記者が質問すると「明日の事は解んないんだな」と山下画伯の名回答もあることだ。
だから今買うべきかもしれないが、もう少しこれは 待つことにした。10年後にも何処かに残っていればそれは縁と云うものだろう。

さて、デッカは専用アームを使ってこそ実力を発揮すると聴いている。
だとすると、MKシリーズで大凡5~6万、アームが2万~10万位する。
ターンテーブルもガラードが良いとなると一度手放したものを再び買うという愚かを犯さねばならず、これは敬遠したが、MKVを某所からお借りして暫く試聴する機会を得た。何に限らず英国の音は品がいい。このデッカを深追いしてみるか、此処は非常に迷ったところだったがガラードの件が癪なのでここは止まった。

最後に残ったのがエラックである。STS-455555等が良いようだ。
無論中古しかないので探したが余り出ていない。
交換針は新品純正で1~2万位で探せばまだある。
やっと見付けて455を僕は買った。

全体に音の輪郭が甘いように感じたが音質は非常によく、好きな音だった。
新藤バージョンには及ばないがレコードで音楽を聴く事に何の支障もない。
特にクラシック系が良いように思った。ドイツのこうした技術レベルの高さをまざまざと見せ付けられたような気がする。
アメリカや日本の音造りは概して品性に欠ける物が多い。イギリスやドイツの音造りには品性が宿っている。それを音の教養と言い換えてもよい。どうやってこれを造るのか僕などに解るわけがないが、そこが決定的に違う事は確かだ。

GARADOは自ら万能と謳っているが明らかにクラシックには向かず、ジャズやロック向きである。都はるみもきっと良いだろう。
だから、この二つがあれば通常の「良い」という以上の音が楽しめる事は確かだ。しかし僕は新藤バージョンを35年間聴いてきた。満足出来ないのである。

約まるところこういうことか、これ以上は探しても無駄かと思った。
ところがあった。古いエラックである。

エラックが日本に輸入される前の型に、STS-200、同210220222240300322330、モノのMST-2Aといった。50年代後半から60年代にかけてのカートリッジ群があるが、その中のSTS-200322、モノのMST-2Aが立て続けに手に入った。

ステレオの両者を比較すると僕は322の方が好みだった。針は0.5ミル、今回は入手しなかったが姉妹機の222には0.7ミルの針が付いているそうだ。クラシックには322がよいだろうとのアドバイスを入れて322にしたが、このカートリッジは素晴らしい。

低音から高音までのバランスは抜群、力強く且つ繊細、ハスキルのピアノをちゃんとハスキルのピアノで聴く事が出来る。新藤バージョン以来やっと満足のゆく カートリッジに巡り合った。厳密に言うとやはり新藤バージョンの方が音が綺麗かもしれないが、クラシックもジャズも両方見事に鳴らすカートリッジは、そう そうあるものではない。MMだから昇圧トランスもいらないので経済的でもあり、交換針はまだしっかり供給源があるというのも有難い。(しかし、針の出来に ばらつきがあるので要注意、またオリジナルの針はマグネットの磁力が減少している物やダンパーがいかれている物が多いとのことなのでこれも要注意、必ず一 回聴いてから入手することをお勧めする。)

更にモノのMST-2Aがまた素晴らしい。バリレラの出番はこれで完全になくなってしまった。
MMカートリッジにも恐るべき物があった。僕はずっと馬鹿にしていたが知らなかっただけだった。

 続く 2010.08.23