もう知っている人は知っている事実だが改めて云っておく価値はあると思う。
最初の計画を縮小してプリアンプだけにして赤豚の制作は数年前にスタートした。
この時は抵抗をAllen Bradley(アーレン・ブラッドレイ)、コンデンサーは電解にマロリー、カップリング、スプラグビタミンQ他同等品、その他オレンジドロップ等を使った。このあたりの部品はマッキンC22などに使われており、音質的にはかなり良好なものである。
以前三栄無線のSRPPプリアンプと4300Bメインアンプの中身を全てこれらの部品に取り換えた事があるが、ぼろ糞だったこのアンプはマッキンC22とMC275のコンビよりも音が引き締まって時としてこれらを凌駕する程の音を出した。部品で音がどれだけ変わるか実証済みだったので迷わず当初はこれらの部品を選んだのだ。
しかし、アーレンの難点はバラツキがある事で、3Kの抵抗が2.8Kだったり、3.3Kだったりする。これが音像のふら付きを誘うのかどうか解らないが、後
にこれはもう少し厳密なデイル中心に置き換えた。音質的には左程の差は感じなかったが、気の所為か音全体が落ち着いたように感じた。
進める人があって、最近それを更に無誘導巻線抵抗に替えたが、これによる音の変化は劇的だった。音の背筋がピンと伸び、前へ飛んでくるような音に変わった。
コレステロールが無くなって血がさらさら流れるように不純物が消え去った感じである。
各楽器の位置のふらつきが無くなり、音が明確になるなど二皮も三皮も剥けた音に文字通り大変身し、この時点でアンプの次元が大きく変わった。
こうなると止められなくなる。
この抵抗の出所はアメリカだそうだ。メーカーは解らないが通常僕らがイメージする抵抗器とは随分形状が違ってコンデンサーのような形をしている。
一個一個抵抗値を測って買ったがどれも表示との狂いは0であった。
駄目元の気分でというより半信半疑でやったことだが、音が出た途端にそうした気分は吹っ飛んだ。部品としては安くないし、数が少ないので必要な値を揃えるのに苦労したが、マッキンやマランツのビンテージアンプを買う事を思えば価格的にはタダみたいなものだし、再度云うが出てくる音は次元が違う。
抵抗をデイルに取り換えた頃、同時にコンデンサーをウェスタンの弁当箱みたいなごつい奴に替えた。若干ビタミンQよりいい音の様に思ったが、これはそう思い
たい気分が聴かせる音で、実際はそれほどの差は無く、落ち着いてくると殆ど差が無い事に聊かがっかりさせられた。また戻すのも面倒だから其の儘にしたが、
お陰で重くなった。重い、でかいは誉められない。
この頃カソードのバイパスにはSPRAGUE(スプラグ)の100マイクロを使ったがこれは少し怪しかった。従来のスプラグ製品に比べると何処となく薄っぺらで価格も安かった。中国製ではないかという人が居たがそうかもしれない。(中国製のものは例え安いからと云っても手を出さない方が無難で結局捨てることになる)
このバイパスは30年ほど前に銀タンタルの150マイクロの買い置きがあったのをすっかり忘れており、思い出して引き出しの奥を探ったら出てきた。
カソードのバイパスにはこの銀タンタルが良く、音が引き締まる。
早速付け換えた。詰まった煙突を掃除した時の様にすっきりした。
これで一応一段落し、ここらでもう良いかと思ったが長くは続かなかった。
抵抗器であれだけの変身ぶりならコンデンサーにこれ以上の物が見つかれば更に又次元がアップするかもしれない。隠れた名品がきっとある筈だ。
それが有った。
結果から先に云うと、先ずカップリングだが、Tektronix(テクトロニクス社)(オシロスコープなど測定器の専門メーカー)の0.1マイクロのオイルコン、これはハーメチックシール(湿気が入らない)処理が施してある。低音部の0.01マイクロはベルマークのウェスタンの(スプラグのOEM)ペーパー
オイルコン、高音部はテクトロニクス0.001とスプラグビタミンQの0.001をパらにした0.002マイクロ、最終段プレートからの出力段0.5マイ
クロは、ハーメチックシール処理されたウェスタンの軍用オイルコン(チューブ型)で決まった。
結局カソードのバイパスに使っている銀タンタルを覗いて全て付け換えることになった。
尤もそれは結果であっていきなりこれらに決定したわけではなく、これらの他にマイカコンやスチコンも試してみた結果がこうなったのである。
部品を付け換えるとき、何もかも一遍にやるとどの個所のどの部品で、音がどう変わったかが解らなくなるから、一か所ずつ付け換えて音を確認しながらやっていった。
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番目は最終段、スプラグのビタミンQからウェスタンの(弁当箱みたいなネジでシャーシーに取り付けて使う灰色の奴)オイルコンに代えたた部分だが、ここは
他に候補が無かったので楽だった。(本来此処の値はプリアンプの入力インピーダンスに合わせるようにするのがベストの筈だが、肝腎な入力インピーダンスが
解らないので0.5マイクロのままにしてある)
音に一層の張りが出て引き締まった。同じウェスタンでも随分レベルが違うものである。ウェスタンなら何でも優秀だと思うのは大変な間違いであることを実感した。
ここはこれで決まり。
2番目はイコライザーの低音部分の0.01マイクロ。ここも同じ様にスプラグからウェスタンの弁当箱に替えていた部分であるが、此処はウェスタンのマイカコンとベルマークのペーパーオイルコンを試した。
マイカコンや弁当箱とでは比べ様も無い程ベルマークは優秀だった。
低音のボリウムがぐんと増し、ぴしっと締った。文句なくこれに決定。
3番目は高音部の0.002マイクロだが、小さい値のコンデンサーは良質の物を見付けるのに苦労する。今迄はずっとオレンジドロップの0.001をパらにして使っていたところである。ここはメーカー不詳のマイカコン、富士電機のスチコン、コーネル・ドゥビラーのブラック・キャット、スプラグビタミンQの0.001をパラにした0.002、テクトロニクスの0.001マイクロを試した。(余りにもテクトロニクスが魅力的だったので0.001も試してみることにした)面倒なことこの上なかった。
マイカコンは音全体に霞が掛ったようになるので没、富士のスチコンは悪くなかったがオレンジドロップと大差ないのでこれも没、テクトロニクスは残念だった。0.001は矢張り音が引っ込む。ビタミンQは音が汚くなって没。
結局、最もバランスが良く、音の綺麗なブラック・キャットが残ったが何か釈然としない。音が一番きれいなのは何と言ってもテクトロニクス。問題は容量が半分
しかない事によて音に厚みがところかも知れないから、ならばどちらかと云うと音が太いビタミンQとパラにして0.002としたらどうなるか、良い結果は想
像出来なかったがやってみた。
結果は目眩がするほど素晴らしかった。
どうしてそうなるのか解るわけがないが、容量が整い、相乗効果で双方の良い所だけが音になって出てきたようだ。抱き合わせるものによっては逆の結果もあるのかもしれないが、偶然とはいえ筆舌に尽くしがたい美音を奏でるようになった。
何でも諦めずにやってみるものだ。生じっか僕に電気の知識が無かった事が幸いした予期せぬ効用の発見である。
4番目はカップリングの0.1マイクロ。ここもビタミンQから弁当箱に替えた部分だ。ウェスタンのマイカコン0.16マイクロとテクトロニクスのハーメチックシール処理が施された0.1マイクロのオイルコンを試した。テクトロニクスが擢んでていた。当然付け換えた。
予想通り音は劇的に変化した。もう何の文句もなし。一体この臨場感はどう云う事なのか。何故こんなもの一つでこうも臨場感が出るのか、本当に気持ち悪いほどで、不思議と云う以外にない。ジャズなどは酒とたばこと咽返る人の臭いまでする。
レコードから臭いがする。嘘に決まっているがそう錯覚させる位生々しい音に変身した。
こうなると寧ろ疑問も出てくる。本当の音とは何なんだという事だ。
色々やったがどれがレコード本来の音なのか。
アンプはレコードに刻まれた音を細大漏らさず色付けをせずに鳴ってくれる事を僕は良しとしているのに、カートリッジで音が変わり、アンプで音が変わり、スピーカーで音が変わる。
そしてこんなちっこい部品一つで音が激変する。
もう冗談じゃねーわ。
が、兎も角結果良ければ全て良し。僕のアンプだから良いと思えばそれで良いのだと割り切って余計な疑問を持つのは止めることにした。
しかし、これで終わったわけではない。シャシーをコンパクトにし、その時序に配線材を換えよう。
これでまた音が変わる。もうヤケクソじゃ。とことん行っちまうしかもうなかろうし、これはこれでまた楽しみなのだ。
つづく 2010.09.14